敬語表現「いただく」について|全学年/国語

勉強方法

「人間関係は、言葉に始まって言葉に終わる」そのようなことをしばしば耳にします。
日々の生活は、「おはよう」の挨拶から「おやすみなさい」の挨拶で終わり、職場においても、「おはようございます」で始まり、「お先に失礼します」、それに答えて「お疲れさまでした」で終わることが多いことでしょう。

そうしたことからも、言葉は人間関係の基盤(少なくともその大きな要素)と言って差し支えないように思われます。
人間関係において、敬語表現は、誤ってしまうと関係そのものにひびを入れかねないほど大切なものでありながら、単純で明快ではないために(浅野信先生も、『吾が国が敬語の国といはれるほど、極めて微妙で多色である』と述べておられます)、おかしな使い方をしてしまうことがままあるようです。

文法的な決まりは(少なくともある程度は)覚えているはずなのに、実生活ではうまくそれが適用できない ― そのようなことがよくあるように思われます。
これを防ぐには、典型的な例をしっかりと頭に入れておき、それを軸にして考え、判断することが有効です。
ここでは、「いただく」の敬語表現について、具体例を挙げながらお伝えします。確実に覚えてしまいましょう。

目次

そもそも「いただく」とは?

「いただく」には多くの語意があります。その中で、敬語表現としての「いただく」を見てみましょう(註記:いくつかの辞書の語義を参考にまとめたものです)。

・「もらう」の謙譲語。目上の人から金品をもらう、恩恵(となるような動作)を受ける場合に、自らを低めていう言い方。
・「食べる/食う」・「飲む」の謙譲語。与えてくれる人を敬う表現。
・「食べる/食う」・「飲む」の丁寧語。自分の飲食することをへりくだり、上品に言う。
・補助動詞
 (動詞の連用形に接続助詞「て/で」を添え、「~て/でいただく」)

 自らにとって恩恵となる行為を他者から受ける意を表す。
 (接頭語「お」または「ご」に動詞の連用形またはサ変動詞の語幹を添えた形につき、「お/ご … いただく」)
 自らにとって恩恵となる行為を他者から受ける意を表す。
 (動詞の未然形に使役の助動詞「せる」「させる」の連用形、接続助詞「て」を添えた形につき、「させていただく」)
 自らの動作についての許しを請う謙譲表現。
 これだけの用法がありますから、単純かつ明快とはいかないのも当然かもしれません。実例で理解していきましょう。

「もらう」の謙譲語

[状況ⅰ]目上の人から何かをもらった/もらう

「いただいた資料は厳重に保管しております」
「少々お時間をいただきたいのですが…」
※「頂戴する」も「もらう」の謙譲語です。「いただく」よりもさらに丁寧で、敬意が深くなります。
「次に、新郎の大学時代の恩師である○○様より、ご祝辞を頂戴したいと存じます」

【!】ご注意あれ
 上にあげた例は結婚披露宴でよく聞かれます。話し手は披露宴の司会者です。その司会者が、次のような誤用を口にすることがあります。
「たくさんの祝電がまいっております」
「たくさんの祝電をいただいております/頂戴しております」と、同じように言えば良いだけですから、首を傾げさせられる誤用ですが、華やかな場での司会であることから、表現を多様にしたいという心理が働くのかもしれません。

【!】ご注意あれ
「申込用紙は、2階の受付でいただいてください」
 ときおり耳にする誤用です。「申込用紙は、2階の受付で受け取ってください」でかまわないところを、へりくだって言わなければならないと思うために、このように言ってしまうのでしょうか。「受け取ってください」では素っ気無いと感じるのであれば、「お受け取りください」とすれば良いでしょう。

「食べる/食う」・「飲む」の謙譲語

[状況ⅱ 目上の人に飲食をすすめられた]

「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
 ここでも、「頂戴する」を使うことができます(「ありがとうございます。遠慮なく頂戴します」)が、やや堅苦しい感じになってしまうかもしれません。
[状況ⅲ もらった食べ物がすごくおいしかったので、家族でがつがつ食べたことを(目上の人にお礼状の中で)伝える]
「あまりのおいしさに、家族と奪い合うようにいただきました」
 まちがっても、「家族とがつがついただきました」などとはしないようにしましょう。

【!】ご注意あれ
[状況ⅳ 実家から届いた梨を休憩時に取り出したところ、それを目にとめた上司が「うまそうだね」と声をかけてきた]
「課長、よろしければ一緒にいただきませんか」(誤用)
「いただく」は謙譲語です。「自分も一緒に」食べるからといって、上司が食べることには変わりありませんから、謙譲語ではなく尊敬語を用いなければなりません。
「どうぞ/よろしければ ひとつ召し上がってください」としたいです。
「召し上がってください」を「お食べになってください」としても、立派な(というのは少し変ですが)尊敬表現です。「お食べください」でも悪くはないでしょう。どれが最適であるかを決めるのは、その上司との距離感であろうと思います。

「二重敬語」という誤用について

 上の「状況ⅳ」では、「食べる」の尊敬表現について書きました。尊敬語は、自分(や身内)がへりくだる謙譲語とは異なり、相手に対して敬意を抱いていることを伝えるための形ですから、その「伝える」を、「明確に伝える」としたい心理が働くのは当然です。しかしながら、この「明確を欲する心理」は、落とし穴ともなります。二重敬語(という誤用)がそれです。注意したいものです。

「部長、○○支店へは何時においでになりますか」(正しい)
「室長、アルファ商事の◎◎さんが11時においでになるそうです」(正しい)
「部長、○○支店へは何時においでになられますか」(誤り)
「室長、アルファ商事の◎◎さんが11時においでになられるそうです」(誤り)
 [状況ⅳ]の「ひとつ召し上がってください」も、これを「ひとつお召し上がりください」とすると、二重敬語となります(ので本来は誤用です)が、この表現は、少なくとも現代では許容されているとも考えられ、目くじらを立てるには当たらないかもしれません。

補助動詞「いただく」

第二段落に述べた補助動詞としての用法をいくつかご紹介します。
「すみませんが、椅子を2脚、1時間ほど貸していただけませんか/貸していただけないでしょうか」
※「椅子を2脚、1時間ほどお借りしたいのですが、いかがでしょうか」とするほうがすっきりした表現と感じる人も多いかもしれません。

「では、ただ今より◎◎先生にお話しいただきます」

「せっかく来ていただいたのですが、あいにく主人は外出しております」

「本日は、お忙しいところをおいでいただき、ありがとうございました」(誤用)
※厳密には誤りです。「おいでになった」のは、自分ではありません。「いただく」は「もらう」の謙譲表現ですから、主体は自分です。「お忙しいところをおいでくださり、ありがとうございました」とすべきです(こうした用法も現代では許容されているとする意見もあります)。

「ご心配いただきまして、申しわけない気持ちでいっぱいです」

「よろしくご検討いただきたく存じます」

「現在までの動向をご報告させていただきます」

【!】ご注意あれ
『させていただく症候群』という言葉をご存知でしょうか。「させていただく」を使いさえすれば敬語として問題ないと考えてしまっている人たちを軽侮するような、または、そうした風潮を揶揄する言葉です。そのような言葉があることからもわかりますが、濫発を気障りと感じ、この表現に対して少し過敏になっている人も多いです。限られた状況でのみ用いると考えるべきでしょう。
「作成させていただいた見積書を同封させていただきました。詳細につきましては、次回お伺いさせていただきました際にご説明させていただきます」
噴飯ものと言わせていただきます。

*参考 動詞の尊敬語・謙譲語のルール

尊敬語の形式
1)動詞+尊敬の助動詞「れる」・「られる」
五段動詞とサ変動詞の未然形には「れる」、上一段動詞・下一段動詞・カ変動詞の未然形には「られる」
 書く → 書かれる    する → される      出発する → 出発される
 起きる → 起きられる  受ける → 受けられる  来る → 来られる

2)お+動詞+になる
 書く → お書きになる 過ごす → お過ごしになる  飲む → お飲みになる
 !この「なる」に「れる」・「られる」をつけると二重敬語(誤用)
  ×お書きになられる ×お過ごしになられる ×お飲みになられる

3)お+動詞+くださる(漢語サ変の場合には「ご」)
 たずねる → おたずねくださる  同行する → ご同行くださる

4)言い換え
 見る → ご覧になる    言う → おっしゃる    寝る → お休みになる
 食べる → 召し上がる  着る → お召しになる   行く → おいでになる・いらっしゃる

謙譲語の形式
1)「いただく」、「してまいります」、「申しあげる/申しあげます」などをつける(お/ご との併用も多い)
 教えてもらう → 教えていただく 努力する → 努力してまいります
  お願いする → お願い申しあげる/申しあげます
  ※「させていただく」は「する」の謙譲表現。サ変動詞に用いることができますが、濫用は避けるべきです。

2)お/ご+動詞+する
  持つ → お持ちする 報告する → ご報告する 
 ※尊敬の2)と混同しないようにしたい。 お持ちする(謙譲) お持ちになる(尊敬)

3言い換え
 見る → 拝見する   言う → 申す・申しあげる 寝る → やすむ
 食べる → いただく  着る → 身につける   行く → 参る・うかがう  会う → お目にかかる

まとめ

如何でしたか?冒頭でも述べた通り、敬語は人間関係を形成するうえで、非常に重要な要素です。特に「いただく」は誤用も多い表現ですので、これを機にしっかりと使い方をマスターしてください!

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こちらの記事の監修者

 浅井保(あさい たもつ)
・北海道大学文学部卒
・家庭教師のアルファ 講師部長
・山手中央高等学院 学院長

 
2008年に『家庭教師のアルファ』のプロ家庭教師として活動開始。
現在、株式会社アルファコーポレーション講師部部長、および同社の運営する通信制サポート校・山手中央高等学院の学院長を兼務しながら講師として指導にも従事。