目次
「いらっしゃる」は「行く」の尊敬語?
「行く」の尊敬表現は?と問われた場合、ある人は「いらっしゃる」と答え、またある人は「おいでになる」ではないかと思い、さらに人によっては、「行かれる」で良いはずと答えるような気がします。どれも間違いではありません。
このように、『どれも間違いではない』ということが敬語の用法には多くあり、それが難しさの一つとなっているのではないでしょうか。やはり、具体例を頭にしっかりと入れておくことが重要となりそうです。
まずは、「いらっしゃる」について見てみましょう(「行く」の尊敬表現としてのもの以外にも触れますので、同時に確認してください)。
「いらっしゃる」は、「いく」の尊敬語ですが、「来る」の尊敬語でもあり、「いる」の尊敬語でもあります。さらには、「~している」ことに対しての尊敬表現ともなります。
①上司に、何時に○○支店に行くかを尋ねたい場合
「部長、○○支店へは何時にいらっしゃいますか」
②上司に、アルファ商事の◎◎さんが来ることを伝える場合
「室長、アルファ商事の◎◎さんが11時にいらっしゃるそうです」
③取引先訪問の際、目当ての相手(総務の●●課長とします)に取り次いでもらう場合
「総務の●●課長/総務課長の●●さん/様は いらっしゃいますか」
①の「いらっしゃる」は、「行く」の尊敬語です。敬語の文法上の原則(下の*参考 をご参照ください)から考えると、「行かれる」も「行く」の尊敬語として成立します。
「部長、○○支店へは何時に行かれますか」でも特に問題はありません。しかしながら、「行かれる」は、『可能』表現(行くことができる)にも使われますので、おそらくはそれとの紛らわしさを避ける心理によって、また(部分的には)、少し軽い印象となるために、「いらっしゃる」が一般には多く使われているようです。
②の「いらっしゃる」は、「来る」の尊敬語です。①では「行く部長」を敬い、②では「来る◎◎さん」を敬っています。こちらも①同様、「◎◎さんが来られる」としてもかまいませんが、「いらっしゃる」のほうがより多く使われているようです。
③は、「いる」の尊敬語です。「いられる」も「おられる」も成立します。けれども、ここでも「いらっしゃる」が多く用いられています。「おいでになりますか」という表現もしばしば聞かれます。これもまた、「いる」の尊敬表現として成立します。「いられますか」、「おられますか」よりもずっと丁寧な感じがあり、使う人が多いのも納得できます。
「おいでになる」は?
前段の③では、「いる」の尊敬語としての「おいでになる」の例をお見せしましたが、この「おいでになる」は、「行く」の尊敬語でもあります(浅野先生の言われる『微妙で多色である』というのは、こうしたことがらも含んでいそうです)。
尊敬の度合いとしては、「おいでになる」のほうが「いらっしゃる」よりも少し上とされているようです。
④ 「部長、○○支店へは何時においでになりますか」
⑤「室長、アルファ商事の◎◎さんが11時においでになるそうです」
少々かしこまった、やや重い感じがあり、「いらっしゃる」よりも相応しい、あるいは似合わしい状況もあることでしょう(例えば、④⑤とも、非常に重要な商談がまとまりかけているといった場合などです)。
明確な違いが落とし穴に(よくある誤り「二重敬語」)
尊敬語は、自分(や身内)がへりくだる謙譲語とは異なり、相手に対して敬意を抱いていることを伝えるための形ですから、その「伝える」を、「確実に、明確に伝える」としたい心理が働くのは当然です。しかしながら、この「明確を欲する心理」は、落とし穴ともなります。二重敬語(という誤用)がそれです。
上記の「おいでになる」も、「おいでになられる」としてしまっているのをたびたび耳にします。二重敬語で誤用です。注意したいものです。
×「部長、○○支店へは何時に"おいでになられますか"」
×「室長、アルファ商事の◎◎さんが11時に"おいでになられる"そうです」
「行く」の謙譲表現(「うかがう」と「まいる」だけ?)
「うかがう」
「うかがう」は、「行く・訪ねる」の謙譲語です(ほかに、「指示や判断をあおぐ」、「何かについて尋ねる」、「目上の人の話を聞く」にも用られるのはご存知のことと思います)。
⑥取引先を訪問したい時
「来週そちらにおうかがいしたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」
「行く・訪ねる」の謙譲語としての典型例です。
ほかに、「お邪魔する」も使えます(「訪問する」の謙譲表現と考えて良いでしょう)。
「来週そちらにお邪魔したいのですが、ご都合はいかがでしょうか」
※「お邪魔する」は、こちらが訪問することで先方には何らかの負担をかけてしまうかもしれない(少なくとも時間を割いてもらうのですから)ことを考慮している感じがありますから、「うかがう」よりも丁寧でへりくだった表現と考えられます。
「まいる」
「まいる」は、昔は「食べる」、「飲む」の尊敬語として、また、「差し上げる」、「お仕えする」などの意味でも用いられていました。けれども、現代では、「行く」、「来る」の謙譲語として用います(丁寧語の発展形と分類すべきものもあるのではという声が聞こえてきそうですが、基本的には謙譲語として差し支えないはずです)。
⑦上司に、○○支店には自分が行くことを伝える場合
「部長、○○支店へはわたくしが参ります」
【!ご注意あれ】
この「まいる」を、尊敬語として用いてしまう誤用を耳にすることが少なくありません。
×「部長、○○支店へは何時に参られますか」
なんとなくかしこまった感じがすることによってでしょうか、明確な誤用であるにもかかわらず、しばしば聞かれます。この誤用の特徴として、「参られる」となるという点をあげて良いと思います。なんとなくかしこまった感じを持つ「まいる」ですから、それに「られる」を加えれば相手を充分に高めているという気になる(気にさせられてしまう)のではないでしょうか。そのような心理によって起こる誤用ではないかと推察します。①または④のように、「いらっしゃる」、「おいでになる」を用いたいものです。
【!さらにご注意あれ】
⑧上司に、大切な取引先であるアルファ商事に行く曜日を尋ねる場合
「室長、アルファ商事へは何曜日に参られますか」
この場合の「参られますか」は、正しい敬語の使い方です。『大切な取引先』というのが重要なポイントで、上司にとってもそれは変わりませんから、上司の行き先が上司よりも上位となります。そういう理由で正しいのです(こうした正しい用い方があるため、「まいる」の誤用がたびたび出来するような気もします)。
「あがる」
「あがる」も「行く」の謙譲語となることがあります。あまりピンとこないかもしれませんが、他の動詞と複合的に用いられる場合にはかなりの頻度で用いられます。
⑨取引先(アルファ商事)に、見積書を届けに行くことを伝える場合
「明日、見積書をお届けにあがります」
近年では、「お届けします」、「お届けいたします」のどちらかが使われることが多いようですが、これは、「上手なへりくだり方」のできる、良い表現と感じられます。廃れさせたくない表現ではないでしょうか。
*参考 動詞の尊敬語・謙譲語のルール
尊敬語の形式
1)動詞+尊敬の助動詞「れる」・「られる」
五段動詞とサ変動詞の未然形には「れる」、上一段動詞・下一段動詞・カ変動詞の未然形には「られる」
書く → 書かれる する → される 出発する → 出発される
起きる → 起きられる 受ける → 受けられる 来る → 来られる
2)お+動詞+になる
書く → お書きになる 過ごす → お過ごしになる 飲む → お飲みになる
!この「なる」に「れる」・「られる」をつけると二重敬語(誤用)
×お書きになられる ×お過ごしになられる ×お飲みになられる
3)お+動詞+くださる(漢語サ変の場合には「ご」)
たずねる → おたずねくださる 同行する → ご同行くださる
4)言い換え
見る → ご覧になる 言う → おっしゃる 寝る → お休みになる
食べる → 召し上がる 着る → お召しになる 行く → おいでになる・いらっしゃる
謙譲語の形式
1)「いただく」、「してまいります」、「申しあげる/申しあげます」などをつける(お/ご との併用も多い)
教えてもらう → 教えていただく 努力する → 努力してまいります
お願いする → お願い申しあげる/申しあげます
※「させていただく」は「する」の謙譲表現。サ変動詞に用いることができますが、濫用は避けるべきです。
2)お/ご+動詞+する
持つ → お持ちする 報告する → ご報告する
※尊敬の2)と混同しないようにしたい。 お持ちする(謙譲) お持ちになる(尊敬)
3言い換え
見る → 拝見する 言う → 申す・申しあげる 寝る → やすむ
食べる → いただく 着る → 身につける 行く → 参る・うかがう 会う → お目にかかる
まとめ
如何でしたか?最初にも述べましたが、言葉は人間関係を形成するうえで極めて重要な要素です。
無用なトラブルや誤解を避け、コミュニケーションを円滑に進めるためにも、是非、正しい敬語をマスターしてください。
こちらの記事を読まれたお子さまへ
もしも勉強のことでお困りなら、親御さんに『アルファ』を紹介してみよう!
「勉強のやり方が分からない!」
「何から始めれば良いの??」
「前回のテストの点数、ちょっとやばかったな…」
そんなことでお困りではありませんか?
『家庭教師のアルファ』なら、あなたにピッタリの家庭教師がマンツーマンで勉強を教えてくれるので、
どんなに今の学力や成績に自信がなくても、着実に力を付けていくことがでいます!
もしも今、ちょっとでも家庭教師に興味があれば、ぜひ親御さんへ『家庭教師のアルファ』を紹介してみてください!
下のボタンから、アルファの紹介ページをLINEで共有できます!
こちらの記事をお読みいただいた保護者さまへ
さて、この記事をお読み頂いた方の中には
「子どもの学校の成績があがらない」
「保護者として、どんな対策をしてあげれば良いのかわからない」
「このままだと進学・受験も不安」
といった、お子さまの勉強に関するお悩みを持たれている方も多いのではないでしょうか。
何も対策を講じないままでいると、勉強に対する苦手意識は日が経つほどに広く、深いものになっていきます。
そのようなお悩みを解決するのが、私たち『家庭教師のアルファ』です。プロ家庭教師による完全オーダーメイド授業を展開するアルファは、これまで15年以上にわたり、全国のお子さまの学習をサポートしてきました。
また、「ご家庭の頼れる教育パートナー」を目指す私たちは、お子さまだけでなく、保護者さまとも充実したコミュニケーションを図ります。お子さまの将来について、共に考え、共に支え、共に理想を実現するのが私たちの仕事です。
今、お子さまの勉強についてお悩みの方は、是非一度、アルファの授業を体験してみてください。下のボタンから、無料体験のお申込みが可能です。
こちらの記事の監修者
浅井保(あさい たもつ)
- ・北海道大学文学部卒
- ・家庭教師のアルファ 講師部長
2008年に『家庭教師のアルファ』のプロ家庭教師として活動開始し、数多くの生徒への学習指導を経験。
現在、株式会社アルファコーポレーション講師部部長。